2020年01月08日

幕開けの拍子木


「火の用心。マッチ一本火事の元」という声と共に響き渡る拍子木の音。
乾燥した冬の時期に見回りをする消防団。
私の地元では、今でこそ消防車からのアナウンスと半鐘が鳴らされるくらいですが、
幼い頃は拍子木の「カンカン」という音をよく聞いていた覚えがあります。
紅白の紐で括られた拍子木が家にもあり、その音が聞こえてくると真似して一緒に鳴らしたこともありました。
火の見櫓と半鐘が今でも使われている地域なのですが、半鐘の大きい音は幼い自分にはとても怖くて。
「ゴーンはやだ、カンカンがいい」なんて言っていました。

拍子木は歌舞伎の舞台でも使われますね。
幕開けにカンカンと拍子木の音が聞こえてくると「始まった始まった」とワクワクします。
山梨県市川三郷町は市川団十郎発祥の地。
実は桔梗屋とも関わりがあるんですよ。

桔梗屋の創業者である中丸熊太郎は、当時の役者や芸術家と親交が深く、9代目団十郎には特に心酔していたようです。
当店創業者の中丸熊太郎の歌舞伎好きと、山梨と縁の深い市川団十郎にちなんで作られたお菓子があります。
それがこの、団十郎十八番。

拍子木をかたどった団十郎十八番は、市川団十郎一門、成田屋の定紋である三升が最中の表面にあしらわれています。
歌舞伎好きは名前から、そして見た目から、「あっ」と思うお菓子かもしれませんね。

カンカンと冬空に響くような高く澄んだ音は出ませんが、サクサクと食欲をそそるような音を出してくれますよ。
もう一枚、もう一枚と手を出していると、その音が止まらなくなってしまうんですけどね。
「もっと食べたいけど、これ以上食べちゃうとな」
食欲と我慢の意志と。攻防の幕開けです。

ozawa